ようやくの事でまた病院まで帰って来た。思い出すとここで暑い朝夕あさゆうを送ったのももう三カ月の昔になる。その頃ころは二階の廂ひさしから六尺に余るほどの長い葭簀よしずを日除ひよけに差し出して、熱ほてりの強い縁側えんがわを幾分いくぶんか暗くしてあった。その縁側に是公ぜこうから貰った楓かえでの盆栽ぼんさいと、時々人の見舞に持って来てくれる草花などを置いて、退屈も凌しのぎ暑さも紛まぎらしていた。向むこうに見える高い宿屋の物干ものほしに真裸まっぱだかの男が二人出て、日盛ひざかりを事ともせず、欄干らんかんの上を危あぶなく渡ったり、または細長い横木の上にわざと仰向あおむけに寝たりして、ふざけまわる様子を見て自分もいつか一度はもう一遍あんな逞たくましい体格になって見たいと羨うらやんだ事もあった。今はすべてが過去に化してしまった。再び眼の前に現れぬと云う不慥ふたしかな点において、夢と同じくはかない過去である。


 病院を出る時の余は医師の勧めに従って転地する覚悟はあった。けれども、転地先で再度の病やまいに罹かかって、寝たまま東京へ戻って来こようとは思わなかった。東京へ戻ってもすぐ自分の家の門は潜くぐらずに釣台つりだいに乗ったまま、また当時の病院に落ちつく運命になろうとはなおさら思いがけなかった。

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